A01-NMRを用いた動的溶液環境に応答するタンパク質の原子レベル解析
研究代表者
菅瀬 謙治
京都大学 農学研究科 教授
近年、生体内における物質の濃度変動や流れなどの化学的および物理的な動的溶液環境がタンパク質の自己凝縮状態を変化させることが分かってきました。例えば、細胞内で濃度変動するATPは、その濃度が10 mM程度のときにはタンパク質の自己凝縮を抑制しますが、より低濃度の場合は抑制しません。また、神経細胞内と同等の流れは非膜オルガネラをアミロイド線維に変化させます。さらに、神経細胞の活動電位と同等の電場中でタンパク質がオリゴマー化するという報告もあります。しかし、これらの過程でタンパク質の構造が原子レベルでどのように変化するのかはよく分かっていません。このような背景のもと、本研究班は主にNMRを用いてATPが細胞内濃度でわずかに自己会合すること、およびATPがタンパク質のとくに疎水性残基と非特異的かつ弱く相互作用することを明らかにしました。またNMR試料内に流れを発生できるRheo-NMR装置を開発し、ALSに関連するタンパク質SOD1のアミロイド線維化過程を世界で初めて原子レベルかつリアルタイムに計測することに成功しました。本研究ではこのような成果を土台とし、試料に流れを発生できるRheo-NMR、細胞内タンパク質を直接観察するin-cell NMR、さらには試料に電場を発生できる電場NMR装置を新たに開発し、実際にこれらの特殊なNMR法を駆使することによって、動的溶液環境とタンパク質との相互作用および自己凝縮体の構造を原子レベルで解析し、動的溶液環境が駆動するタンパク質の自己凝集・分散機構を解明します。