B01-生化学的手法を用いた天然変性タンパク質の自己凝縮過程を制御する動的溶液環境の解明

研究代表者 
関山 直孝
京都大学 理学研究科 助教

天然変性タンパク質の自己凝縮過程には、分子を取り囲む動的溶液環境が関与していることがわかってきました。例えば、神経変性疾患にみられるアミロイド線維では、タンパク質分子同士が密に噛み合い不可逆な凝集体を形成しますが [Guenther et al, NSMB 2018]、非膜型オルガネラでは、タンパク質分子の周りに存在する水分子が潤滑油のように働き凝縮の程度を調節していることが示唆されています [Hughes et al, Science 2018]。このようにタンパク質の自己凝縮過程における溶液環境の重要性が認識され始めていますが、これまのでの研究では精製タンパク質を対象としたin vitro実験がほとんどで、細胞内における動的溶液環境と非膜型オルガネラやアミロイド線維形成との関係についてはよくわかっていません。
 我々のグループはこの問いに答えるために、ストレス顆粒の構成因子であるTIA-1(T-cell intracellular antigen-1)の研究に着手し、これまでにTIA-1がクロスベータ構造を形成し、さらにALSに関わるアミノ酸変異がその溶媒和構造を変化させることを見出しました。加えて、培養細胞からTIA-1顆粒を単離する手法を確立しました。本研究では、これらの知見や技術を元にTIA-1の自己凝縮過程を制御する動的溶液環境の網羅的探索を行います。まず、アミノ酸選択的化学修飾と質量分析法を組み合わせた手法により、細胞から単離したTIA-1顆粒内部の溶媒和構造を明らかにし、野生型とALS変異型の比較を行います。次に、ATPやイオンの添加といった化学的環境や超音波や撹拌といった物理的環境の摂動を与え、TIA-1顆粒の溶媒和構造がどのように変化するかを解析し、非膜型オルガネラやアミロイド線維を安定化する動的溶液環境を探索します。細胞から抽出した顆粒をin vitro実験系で扱うことにより、細胞内分子の影響を考慮しながら溶液環境を自由に変化させ、生物学的意義のある動的溶液環境の特定につなげます。