B02-合成生物学技術による生細胞内での動的溶液環境評価系の構築

研究代表者 
中村  秀樹
京都大学 白眉センター/大学院工学研究科  特定准教授

タンパク質自己凝縮過程の研究は、精密な操作が可能な試験管内での実験を中心に発展してきました。しかし、タンパク質が極めて高い濃度かつ純度で存在する試験管内の条件と、実際の生体内におけるタンパク質の溶液環境条件との間には大きなギャップがあります。そこでB02班は、領域内の理論・実験結果から得られた標的天然変性タンパク質の自己凝縮過程の原子・分子レベルの理解を実験的に検証可能な仮説に落とし込み、これを実際に生きた細胞の中で検証します。

『“操る”ことで理解する』ことを目指す合成生物学分野の技術を基盤に、タンパク質の自己凝縮過程を、小分子化合物や光刺激によって細胞外から自在に操作する方法論を確立します。領域共通の標的であるα-シヌクレインとTIA-1を用いてこの技術開発を行い、さらに生きた細胞内の物理的・化学的溶液環境、特に細胞質で生じるずり応力や細胞内ATP濃度に動的な摂動を加える技術を組み合わせます。精密に制御した摂動が自己凝縮過程のダイナミクスに与える影響をライブセルイメージングで定量的に解析し、領域内で立てた仮説の生きた細胞内での検証に挑みます。

並行して、自己凝縮しやすいタンパク質をモデルとして用いて自己凝縮過程を制御する新たな溶液環境要因の探索にも取り組みます。神経細胞の活動電位や細胞の遊走など、細胞生物学の対象である生理的かつダイナミックな現象が天然変性タンパク質の自己凝縮過程にどう影響するかを実際の生きた細胞内で検討し、各種プローブを用いた蛍光イメージングで自己凝縮過程に強く影響する溶液環境を同定します。

領域内の研究を通じて得られた仮説の検証、およびタンパク質自己凝縮を制御する新規動的溶液環境要因の探索を、生きた細胞内という生物学的に意義のある生理的環境下で行うことで、原子・分子レベルの物理化学的理解に基づくタンパク質自己凝縮過程の生理学という新たな領域を開拓します。